きんもくせい

あの、テレビも周りも、「今回ばかりは大変だ。用心せよ!」と警報を鳴らしていた台風19号が過ぎ去って、数日後のこと。

幸い、自分の住む地域や職場、実家は、窓が割れるとか、停電するとか、そういった被害はなかった。ほっとした反面、そういった被害に遭った人々の思いを考えると、なんだか今自分が安全であることが喜べないでいる。

そんな思いを抱いて、週明けのこと。

いつものように、職場へ向かっていた。いつもの道を、いつものように歩く。

ふわり、と、いつもと違う香りがした。

ふと、香りのしたほうを探すと、いつも通る道の、いつも横切る木に、小さなオレンジ色の花が咲いていた。

見たことある花。嗅いだことのある花。

きんもくせいだった。

去年もずっと、同じ道を通っていたのに、気づかなかった。その香りにも、存在にも。

台風は、いろんなものを吹き飛ばしていったが、この道に漂っていた余分な臭いも、吹き飛ばしていったのだろうか。そんなことを思いながら、ふわりと甘い、きんもくせいの香りを嬉しく思った。